
【アートコラム】ピカソの遺産
1973年91歳で亡くなったパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)の遺産は、現在の日本の円換算で7,500億円と言われている(山口揚平著「なぜゴッホは貧乏で、ピカソが金持ちだったのか?」)。
これだけ天文学的な額の遺産となると、当然相続は揉めに揉める。遺産継承者は、未亡人と前妻との間の孫二人、それにピカソと愛人の子三人の計六人であった。相続税を徴収するフランス政府もこの相続に深く介入した。この相続はフランス政府にとって国家プロジェクトとも言える重大な案件だったからである。
相続が揉めたのは金額の大きさのためだけではない。遺産のほとんどがピカソ自身の作品だったからである。そのおびただしい作品を一点一点評価しなければならず、また遺族は作品をお金にしなければ相続税が払えないという困難に直面することになった。1977年になってやっとこの騒動は終わった。フランス政府は一定の範囲内で相続税としてピカソの作品で支払うことを認めたのだ。この作品群のために政府は、パリのマレー地区に新たに「国立ピカソ美術館」を造設した。
ピカソの例は極端にしても、美術品の相続は往々にして遺族を困惑させる状況を作りえる。美術コレクターは、この点に配慮して、生前から自分のコレクションの行く末を定めることをお勧めしたい。